不動産の基礎知識
2011-10-14
『マンションの積立金に関するガイドラインについて』
今年4月に国土交通省から、「マンションの積立金に関するガイドライン」が
発表されました。
これは、新築マンションの購入者向けに修繕積立金に関する基本的な知識や、
修繕積立金の月額の目安を示すことで、購入前に分譲事業者から提示された修
繕積立金の水準について、判断する際の参考材料として利用してもらうことを
目的として発表されたものです。
今回のガイドラインにおいて特に注目されたのは、以下のように、修繕積立金
の月額の目安が初めて数字で明記されたという点です。
『専有床面積当たりの修繕積立金の平均額』
▼15階建未満
・建築延面積5,000㎡
→218円/㎡・月
・建築延面積5,000㎡~10,000㎡
→202円/㎡・月
・建築延面積10,000㎡以上
→178円/㎡・月
▼20階建以上
・建築延面積に関わらず
→206円/㎡・月
この修繕積立金の月額の目安の基準は、国交省が2008年に作成した「長期修繕
計画作成ガイドライン」をお手本にした84棟のマンションの事例を収集・分析
して作られています。
1棟の平均専有面積が55㎡以上のファミリーマンションを対象としていますの
で、当社が中心に取り扱っている単身向けのマンションにそのまま当てはめら
れる基準ではありませんが、実際にこれまで取り扱ってきた物件を調査してみ
たところ、もちろん多少の上下はありましたが、基準から大きく外れている物
件はありませんでした。
では、このガイドラインの基準を満たしていれば適切に積み立てられていると
言えるのでしょうか?
答えはNOです。基準を満たしているから適切とは言えないですし、逆に満た
していないからといって直ちに不適切だとも言えません。
現段階のガイドラインは、「適切です」と言い切るにはあまりにも事例数が少
なすぎるからです。国交省のレポートには、84棟のマンションの事例を収集・
分析して平均値を出していると記載されていますが、実際は建築延べ床面積ご
とに4つのパターンに分けてしまっているため、1パターンあたりの事例数は
20~25棟くらいしかないのです。
また、ガイドラインの中でも述べられていますが、修繕工事費は様々な要因に
より変動する可能性があります。
例えば、複雑な形状をした建物の場合はシンプルな形状の建物より修繕工事の
際に設置する足場の費用が高くなりますし、幹線道路沿いの建物と閑静な住宅
街の建物では排気ガスによる外壁タイルの汚れ方が異なるため、外壁タイルの
洗浄費用も変わってきます。つまり建物自体の質や環境によって何通りものケ
ースが出てきてしまうということです。
購入時の目安としてある程度活用できるようになるには、より多くの事例数を
サンプルとして、単身向けのマンションを含めた規模によるケース分けや、環
境等の諸条件も考慮したケース分けが必要になってくると思います。
20年ぐらい前まで、マンションの修繕積立金というと「管理費の10%ぐらい」
が相場と言われていました。それは、なるべく金額を抑えたほうが売りやすい
と考えられていたからです。
しかし、その程度の金額では必要な修繕費用が到底まかなえないため、大きな
問題となりました。
その後は分譲会社の業界団体が音頭をとったこともあり、長期修繕計画の策定
と、それに基づく修繕積立金の設定が一般的になってきてはいますが、まだま
だその歴史は浅いため、今回のガイドラインを足場として、適切な修繕方法、
積立方法をめぐって今後も議論が交わされていくことで、徐々に精度の高いガ
イドラインができていくのではないでしょうか。
今回のガイドラインの積立金の目安は、前述したように事例数が少ない上に、
15階建で5,000㎡以上かつ専有面積が55㎡以上のファミリーマンションを対
象としているため、20㎡前後のワンルームマンションの場合はあまり参考にな
りません。
しかし、ガイドラインには修繕積立金の目安についてだけでなく、積立方法の
違い(段階的に増額するか、均等に積み立てるか)によるそれぞれの特長と留
意点や、修繕工事費の割合や修繕積立金の変動要因など、どのタイプのマンシ
ョンを所有されている方でも参考になる情報も記載されています。
マンションの資産価値を維持向上させるために修繕は重要な要素の一つです。
これから購入される方も、既にお持ちの方も、ページ数も少なめで初心者の方
でもわかるよう簡潔に書かれていますので、一度ガイドラインを読んでみては
いかがでしょうか。
『マンションの積立金に関するガイドライン』国土交通省2011.4
→ http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/mansei/tsumitate2304.pdf