不動産の基礎知識
2009-10-30
『更新料の無効判決について』
新聞やテレビ等で大きく取り上げられたのでご存知の方が多いと思いますが、
先々月の8月27日に大阪高裁にて、更新料無効の判決が出されました。
既に物件を所有されている方の中には、
「東京でも更新料が取れなくなってしまうのでは?」
と心配されている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
先月開催された不動産協会主催の業者向けのセミナーで、この更新料無効判決
が取り上げられ、当社も参加してきましたので、簡単にではありますがご説明
させていただきます。
まず判決の概要ですが、
「事業者を賃貸人、消費者を賃借人とする消費者契約である建物賃貸借契約に
付された更新料支払いの特約を、消費者契約法10条(※)により無効であると
して、賃貸人に対し、消費者契約法施行後以降に支払済みの更新料40万円(そ
の他に敷金5万5千円)の返還を命じた賃借人勝訴の逆転判決」となっており
ます。
(※)消費者契約法10条とは「消費者の利益を一方的に害する契約は無効とす
る」という条文です。
この裁判例の留意点はいくつかあるのですが、個人投資家の方にとって最も重
要なのは、【消費者契約法10条により更新料特約を判断しており、消費者契約
でない借家契約は対象外であること。】という点です。
消費者契約とは、事業者と消費者との間で締結される契約とされており、「消
費者」とは、個人(事業として、又は事業のために契約の当事者となる場合に
おけるものを除く。)とされ、「事業者」とは、法人その他の団体及び事業とし
て、又は事業のために契約の当事者となる場合における個人をいうとされてい
ます。
消費者の利益を守るために作られた法律ですので、個人⇔個人間の契約は消費
者契約には該当しないということです。
つまり、個人投資家は「事業者」にあたらないため(※)、消費者契約法10条
により更新料特約を無効と判断している大阪高裁の判決は個人(消費者)⇔個
人(消費者)間での賃貸借契約にはあてはまらないということです。
(※)10戸以上賃貸されている場合等は事業者に該当する可能性があります。
ただ、賃借人が事業者の場合(法人契約など)、は消費者⇔事業者の図式にな
りますが、更新料特約が消費者(賃貸人)の利益を一方的に害するものとは認
められないと考えられます。
新聞やテレビ等の見出しでは、「更新料無効判決」という言葉が大々的に報じ
られたため、「更新料無効」という言葉だけが独り歩きしてしまい、判決の内
容を詳しく理解されている方は少なかったのではないでしょうか。
恥ずかしながら私もその一人で、セミナーに参加するまでは、ただ単純に「東
京でも更新料が取れなくなるのかな。」と思っていました。
もちろん今回の判決が消費者契約法を根拠に更新料が無効とされただけで、た
だ単純に個人⇔個人間の契約なら更新料は有効で無効にならない、というわけ
ではありません。
もし借地借家法を根拠に(30条に建物の賃借人に不利なものは無効とするとい
う条文があります。)更新料は無効という判決がでた場合には、個人⇔個人間
の契約にも影響を及ぼす可能性もあるようですし、逆に、今回の関西圏のケー
スが特殊なだけで(本件では更新料は1年毎に家賃2か月とかなり高額)、地
域特性を考慮して関東圏では有効性を判断する、ということも予想されるそう
です。
したがって、今回の判決が個人⇔個人間での契約には影響がないからといって
安心というわけではなく、更新料問題は今後も動向を追いかけていく必要があ
るようです。
現在のような情報過多の時代では、今回のケースのように
「更新料無効判決」=「全ての更新料が無効」
と表面的な情報のみで単純な図式を描いてしまいがちです。
今回の件で情報を受け取る側の安易さもそうですが、セミナーやメルマガなど
で皆様に情報を発信している側としては、確かな情報、根拠のある情報を発信
する責任というものを改めて感じました。