不動産の基礎知識

2011-02-04

『どうあるべき?賃貸自殺処理紛争』

日本は年間自殺者数が3万人を超える自殺大国です。

そのすべてが悲しい出来事ですが、賃貸物件の室内でそれが行われた場合、問

題は更に複雑です。

マンション経営をご検討中の皆様にとりましても、入居者の自殺は想像しきれ

ないリスクの一つだと思います。

 

その際、マンション経営に関する論点は大きく二つあると思います。

一つは、その後の賃貸募集や売買取引における仲介業者の告知義務の問題です。

一体どのくらいの期間、自殺物件である旨を重要事項として説明しなければな

らないか、ということです。

もう一つは、遺族によるオーナーに対する損害賠償の問題です。

もちろん両者は密接に関係していますが、今回は主に後者に焦点をあててお話

いたします。

 

昨年末の12月22日に全国自死遺族連絡会は、賃貸住宅での自殺を巡り、遺

族が家主から高額な損害賠償を請求されるケースが相次いでいるとして、一定

のルールを定めた法律制定を求める要望書を内閣府に提出しました。

 

連絡会によると、

『一般に自殺があった賃貸住宅は「心理的瑕疵(かし)物件」と呼ばれ、借り

手がつかなくなったり、家賃が大幅に安くなったりするため、損害賠償の対象

になる。しかし、最近は遺族の混乱やショックにつけ込み、家主らが改修費な

どを過大に請求するケースが少なくない。』とのことです。

 

具体的な事例としましては、

「室内全体の改装費などとして約700万円を請求された」

「おはらい料も求められた」

「アパート全体を建て替えると言って1億2,000万円を請求された」

といったものがあったそうです。

損害賠償の請求額が過大であったか否かは、個々のケースを精査する必要があ

りますが、遺族からすれば過大だと感じても、オーナーからすれば、それでも

当初の収益見込みを回復できないというケースもあるでしょう。

 

そして、遺族の方には酷かもしれませんが、実はオーナーには何の責任も無く、

オーナーも被害者なのです。

自殺しないようにすることも含む「善良な管理者としての注意義務」に反し、

故意に自殺行為を行ったのは賃借人の方です。従って、その保証人や相続人に

損害を賠償する義務が生ずるのは仕方ありません。

 

しかし、オーナーも損害額全額について賠償を受けることは困難です。

なぜなら、賃貸事業者としての事業リスク(賃借人の自殺もあり得るというこ

と)を一定範囲内で負担すべきと一般的に考えられるからです。

つまり、自殺による損害賠償の問題は、賃借人の保証人や相続人による賠償責

任と賃貸人であるオーナーとのリスク負担の調整問題であるわけです。

 

しかし、その調整ルールの整備は十分とは言えない状況のようです。

自殺物件は心理的嫌悪物件として、「全く気にしない」という人もいますが、

社会通念上は敬遠されると考えていいでしょう。

では、嫌悪感の軽減にどのくらいの経過年数を要するかと言えば、ケースバイ

ケースとしか言いようがないようです。

 

和解事例を見ますと、非常に大雑把にですが、

『少なくとも自殺後5年間程度は、年間賃料が40%(これも当初は更に大幅

に、やがて少しずつ回復すると考え、その平均という意味)程度はダウンする。

その損失を賃借人の保証人や相続人とオーナーが折半すると考え、賠償金額を

算出する。』といった例があります。

これは40%を折半して20%、その5年分で結局『賃料の12ヶ月分相当額

の損害賠償を請求できる。』といった処理になっていきます。

 

しかし、それでは過大だ、いや過小だと感じ、訴訟に発展することも少なくな

いでしょう。あるいは、不本意ながらも応諾してしまいその結果冒頭のような

相談を持ち込むことになってしまうのでしょう。

非常に難しい問題ですが、何らかのルール作りや法制化に踏み込む時期にきて

いると思います。

 

さて、マンション投資において、この問題をどの程度のリスクと認識すればよ

いかということですが、単純に数値化して語れる問題では無い事を承知の上で、

敢えて試算することをお許しいただければ以下のようなイメージです。

 

警察庁や厚生労働省の統計によれば(以下の数字は概数です)、年間の全国自

殺者数は3万人、東京都のシェアが10%、このうちワンルームの居住が多い

10歳代+20歳代のシェアが25%、自室での割合が50%です。

さらに以下は相当大雑把な推計ですが、実際にワンルームマンションに住んで

いるのが10%(自宅やアパートもあるため)、ワンルーム系の室数が20万

室と仮定しました。

 

結果は1万室に1~2室となります。

そして、この数字は2千室あまりを管理する当グループの賃貸管理部門が過去

一度だけ経験している状況とも合致します。

 

また、私見ではありますが、告知の問題は認識した上で、心理的な瑕疵は早く

風化してしまうことが健全かつ合理的だと考えます。

そして、その意味では都市部の物件ほどその傾向が強くなっています。

 

マンション経営をご検討の皆様には重たい話題となってしまいましたが、投資

に内在するリスクもきちんとご報告する当社の考えをご理解いただけたらと思

います。